雨に似ている
弦を押さえ指盤を叩き震わせ、弓を引きながら音を共鳴させる。


「弾く」「奏でる」というよりも寧ろ、歌わせるのだと。

詩月のヴァイオリンの音はまさに、その言葉通りのように思える。

ヴァイオリンを歌わせながら、ヴァイオリンと会話をしている、そんな優しささえ感じさせる。

――自信に満ちた顔、迷いのない素直な音。
本当にポーカーフェイスで、こんな演奏はできない


郁子は詩月のヴァイオリン演奏を聴きながら、もっと素顔を見せればいいのにと思ってみる。
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