雨に似ている
縁日の当日。

詩月は理久と夕方から出掛けた。

夕暮れの中。

浴衣姿の郁子が祭り囃子の賑やかに聞こえる通りを慣れない下駄を鳴らし、詩月の少し前を安坂と歩く。

郁子の烏の濡れ羽色をした髪に、淡い桜色の簪《かんざし》が映える。

薄化粧を施した郁子は普段にも増して、大人びて見える。

安坂と親しく話しながら時折、郁子が笑顔を見せるたび、詩月のつ胸が高鳴る。

郁子はヨーヨー釣りの前で足を止め、無邪気に明るい声をあげヨーヨー釣りをした。

郁子の隣でヨーヨーを釣れずに激しく泣いている女の子と男の子に、釣ったばかりのヨーヨーを1つずつ手渡したり、詩月に「縁日の定番だ」と言い林檎飴を買って勧めた。

郁子は縁日が初めてだと言った詩月に「貢は的当てが得意だ」とか、「理久は金魚掬いが得意だ」とか、「縁日の焼きそばは美味しいだ」とか他愛ない話をした。

詩月は郁子の学校では見せない一面を知り、普段は近寄り難いとかお高くとまっているだのと言われている姿とは、まるで別人だなと思った。

理久が郁子のペースに巻き込まれ戸惑う詩月を気遣い時々、郁子に声をかける。

安坂がその様子を見て「理久、本当の兄弟みたいだな」と、小さく笑った。

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