雨に似ている
「まあな、家が隣同士だからな」

理久の家は個人経営の病院だがけっこう大きい。

名の通った総合病院だ。

とくに循環器科と呼吸器科が専門で、通院してくる患者も毎日かなりの人数だ。

入院患者も入れ替わり立ち替わりで、いつも飽和状態だ。

朝から夜遅くまでに加え、たびたび急患もあるし夜中に入院中の患者が変し呼び出されることもあり、理久は小学生までは家にいるよりも詩月の家にいることが多かった。

詩月は理久の様子を端で見ていれば、詩月と理久が兄弟だと思うのは当たり前かもしれないと、安坂と理久の会話を聞きながら思った。

理久は途中で1人、席を外し5分ほどしてビニール袋を1つ提げて戻ってきた。

詩月たちは露店通りをあれこれ見て回りながらゆっくり抜け、緩やかな坂道を神社の境内に向かって歩く。

道なりに規則正しく置かれた灯籠の灯りが、目に優しく心を落ち着かせた。

理久はお地蔵を祀った小さな御堂を幾つか通りすぎ、足を止め後ろを振り返った。

郁子と安坂は足を止めずに先に進む。

緩やかな坂道は、理久が振り返った数メートル先から石段になっていて、数十段続く石段の先に境内の屋根が見える。

理久が詩月に足並みを合わせて歩く。

< 92 / 143 >

この作品をシェア

pagetop