take it easy
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「古瀬さん。書類出来ました」

 両手で差し出した書類を見て、ちらっとだけ視線を上げる古瀬さん。

「…そこに置いておけ」

「えー……」

「何を企んでいる?」

「映画行きませんか?」

 書類に挟んだチケットを出して、ニッコリと微笑むと、

「馬鹿かお前は」

 古瀬さんは書類だけ受け取って、それから眼鏡のズレを直す。

「仕事中に何を考えているんだ」

 テキパキと書類の角を揃えて、それから目を通し始めた。

 こうなると、まわりが目に入っていない。

 話しかけても、変顔をしても、一切合切マイワールドに入っている……

 けど。


ププププ……


「古瀬です」


 内線には反応するんですね~。


 きっと鬼は鬼でも、仕事の鬼なんだと思うんだな。

 静かに怒っているのはよく見るけれど、怒鳴り声を上げて怒っているのは見たことがないし。

 逆にそれが怖いんですよね。

 まず、眼鏡のレンズが反射して見えて、それからゆっくりと腕を組んで……

 そして、静か~に、

「成宮」

「こんな感じですよね」

「……真昼間から寝ぼけているのか」

「ああ。いいえ。しっかり目覚めてますよ~」

 ニッコリ微笑む私に、古瀬さんは無表情。

「ともかく」

「はい」

「お前、営業課の書類はもう出したのか」

 営業課……

 営業課。

 営業課ぁっ!?


「え。そんなのありましたか?」

「午前中、計算を直せと言った書類だ」

 午前中……

「あ……」

 呟いたら、ジロリと睨まれた。

「お前は……」

 小さく舌打ちが聞こえて、

「書類を持ってこい」

「え……あ、あの」

「お前に頼んだ僕が悪かった。もういいから持ってこい」

 もういいから……

 もういいからって……


「嫌です!」

「子供みたいな事を言っていないで持ってこい。時間がない」

「すぐやります!」

「お前だと遅い」

「頑張りますからっ!」

 だから、もういいなんて言わないで下さい!
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