私の優しい人
「啓太さんってどちらの出身なんですか?」

「僕? 実はここの隣県出身だよ。とはいっても、都会の方じゃなくて、山奥」

「そうなんですね。言葉遣いからも、もっと関東の方なのかなって思ってました」

「そう聞こえた? こっちに来るとやっぱりこっちの言葉はでちゃうけど」

「今の所、全然感じませんよ」

「大学まではこっちだったんだよ。仕事柄、どこにも根を張れなくなっちゃったけど」

 彼はどこか遠くから来た人だと思っていたけど、出身は意外にも隣の県。

 最初の赴任地から段々と南下してきて、今はたまたま出身地に近いここにいるという。

 年齢が私より1つ上だとわかり、何となく敬語も無くなった所で、彼はこの数年以内での結婚は考えていないと言い切った。

 それって私を警戒しているからって思ったけど、

「それでも良かったら、里奈ちゃんとまた会いたい」
 と嬉しい事を言ってくれた。

 すっかり意識の外に閉めだしていたけれど、出会った時にはもう彼の職業はわかっていたし、転勤ありきの事は理解していた。

 一年数か月後にはここから居なくなってしまう人。
 女性としての私の年齢と、彼の転勤の事も考えて、これからの選択肢を与えられた。

 結構な究極……

 まだお互い20代。でも微妙な年齢なのは否定できない事実。

 この先の一年ちょっとの後にあるのは、遠距離恋愛かお別れ。結婚は、当分なし。
 なるほど。確認するのは省いていい作業じゃなかった。
 でも、そんな条件だけで彼を諦める事はできない。

「私も会いたい。啓太さんと、これからも」

「……ありがとう」

 ほっとした様子に、彼も私の返事を待つ間に緊張してた事がわかった。

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