極上ドクターの甘い求愛
『――ありがとう、繭ちゃん。』
騒がしかった廊下から、誰もいない階段に入ると、私の方に振り返った岩崎先生は甘い笑顔を向けた。
「…その"繭ちゃん"って呼び方、どうにかなりませんか?」
ふいっと先生から目線を逸らした私は、薬剤部がある1階へと階段を下りていく。
その後を先生が付いてくる。――付いてこなくてもいいのに。
『えー?だって、いつもは"繭ちゃん"って呼んでるんだし、仕方なくない?』
「仕事中はやめてくださいって言ってるんです。」
本当に毎回毎回この人は…。堪えきれなかった重いため息が出る。
私の家族と女友達しか呼ばせたことのない私の下の名前を連呼してくるこの男、岩崎 右京。29歳。消化器系外科医。
半年前、さっきみたいにナースに囲まれて困っていた先生のSOSを受けて助けてあげてからというもの――毎日毎日私に構ってくる暇な人。
『んー、覚えてたら善処するよ。』
「はぁー…そこは絶対、と言ってくださいませんか?」
『相変わらずクールだねー、繭ちゃん!』
…言ったそばから"繭ちゃん"だし。
もういい。何回注意しても岩崎先生が私を苗字で呼ばないことは分かり切ってる。
苗字を呼んだとしても、さっきみたいに先に"繭ちゃん"が出るのがお約束というのも知っている。