労苦
第19章
     19
 昼に蕎麦屋で食事を取り終えて、また橋村を連れ、歩き出す。


 胃の中が満たされれば、頭も回転し始める。


 逆に言えば、空腹だと、進む仕事も進まないのだ。


 南新宿の街を歩き回った。


 納得いくまで。


 だが、手掛かりらしい手掛かりは得られない。


 鑑識の上田が金庫のノブと中にあった書類を精査し、ムーンが事件関係者のたまり場であったことを調べてくれたこと以外、何もない。


 捜査を前進させる物証はないのか?


 ジレンマがあった。


 まあ、慌てても仕方ない。


 現役刑事でも、掴めないことが山ほどある。


 街を歩きながら、そう思っていた。

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