東堂くんは喋らない。
はぁ、と自然に漏れるため息をそのままに、昇降口に向かう廊下を歩いている時だった。
「東堂くんっ!」
…は?
振り向くと、俺に向かって猛ダッシュしてくる松原…
「っ追いついたー!」
そして俺の前まで来ると、ゼェゼェと息をしながら膝に手を置いて笑った。
「東堂くん相変わらず歩くの速っ!」
「…山本とラーメン行くんじゃないの」
松原のほかに、山本の姿はどこにもない。
「あぁ、それねー!また後日ってことになった!」
「……ふーん、何で?」
「だって、東堂くんが心配だったから」
「…は?心配?俺が?」
俺が松原に心配される心当たりなんてどこにもないけど…。
眉をひそめる俺に、松原がグイッと顔を近づけて、俺の顔をまじまじと見つめた。
「…な、な何だよ」
「なんかいつもと違うから」
「…は?」
「うまく言えないけど、さっきの東堂くん、なんかいつもと雰囲気違ったから。
なんかあった?」
じっと、松原のクリクリした目が俺を射抜く。
…こいつ。俺の様子がおかしいことには気付いても
それが自分のせいで、なんて
夢にも思ってないんだろうな。