2・5次元の彼女
第12章 未来を笑顔で上書いて
***第12章***



店に入って辺りを見渡すと、敷き詰められた満席のテーブルと、ごった返す人の波。
ここから特定のひとりを探し出すのは容易ではないと思われた。
が、幸いにもその波間から1本にょきっと天へ伸びる腕。

「ユウさーん! こっちこっち!」
その手がぶんぶんと横に振れ、人の切れ間から探していた顔がぴょっこりと覗いた。

「イリーナ! おまたせ」
私がイリーナの座る席へ向かうと、テーブルの上にはすでに空いたグラスが3つ。

「……もう、飲んでるの?」
私が呆れ半分に言うと、イリーナはやれやれと肩を竦めた。
「だって。ふたりとも全然こないんだもーん。何も飲まずに席だけ居座るの、失礼でしょ?」

言ってることは間違っちゃあいないが、それにしてもペースというものがあるだろう。
「イリーナさぁ、景斗がおごってくれるからって、気が大きくなってるでしょう?」

イリーナは正面の席に座った私へメニュー表を差し出す。
「せっかく景斗が給料日に奢ってくれるって言ってんだからさぁ。パーッといこうよパーッと」
そう言って悪びれもなく笑った。

「……て、当の本人がまだ来てないみたいだけど」
「もうすぐ着くってさー」
イリーナは携帯電話をちらりと確認しながら、4杯目のグラスを大きく傾ける。
酒はあっという間に喉の奥へと吸い込まれ、空になったグラスがまた1つ増えた。

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