幸せそうな顔をみせて【完】
 最初から見直し、金額は効率的にカット出来るところはして、それでもレベルを落とさないように内容を増していく。何度も何度も作り直していると、気付くとかなりの時間が過ぎていて定時さえも過ぎていた。時計を見ると既に自分がどのくらい真剣に仕事に取りくんでいたのかを思い知る。


 頑張ったおかげで最初よりももっといいプレゼンが出来るくらいには持って行けたと思う。今日のアポの前に自分なりに頑張って作ったつもりだったけど、今日の緑川さんとの話でかなり自分の思い描くイメージと相手方である緑川さんの持っているイメージが違うことに気付いた。


 相手の希望する商品を提供するのが私たち営業の仕事。それを少しだけ自社の利益だけを考えて、相手方のことを考える気持ちが薄かった。それが今日のアポで分かった。


 でも、今日ので終わりじゃない。もう一度、検討して貰うように時間を作って貰うつもりだった。


「もうこんな時間」


 それでも、横の席には誰も居なかった。

 
 比較的自由な社風の上、営業部は取引先によって時間を制約されるから朝に一度集まる以外は帰社しない者までいる。それが当たり前で、副島新も今日は取引先から直帰なのかもしれない。


 一度くらいは顔をゆっくり見て話したかったけど、こんな風にお互いに仕事をしているのだから仕方ないと思う反面。真横の席なのにこんなにも会えないというのを寂しくも思う。



「お疲れ様」


 そんな言葉を残して私は片づけをして営業室を出たのだった。


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