幸せそうな顔をみせて【完】
 今日はまだ、始まったばかりなのに何度ドキドキするのだろう。


 恋をするとその彼に対する思いからドキドキが止まらなくなり、仕事が手に付かないというのも聞いたことがある。でも、私はその恋心を仕事の糧に出来るような気がする。昨日は付き合い始めてすぐの月曜日だったからドキドキもしたし、会えないことで頭の片隅に副島新の影がチラついていた。でも、今日からはいつも通りの仕事が始まる。


 それが私。



「じゃ、取引先に行ってきます」


 朝礼が終わって準備が終わった副島新は同じ課の人に聞こえるように言ってから行ってしまった。そんな後ろ姿を見送ると自分の仕事に戻るのだった。自分の資料を作るのは大変。でも、それ以上に副島新から与えられた仕事は気を遣う。


 校正というのは間違いが許されない。特に大事な資料になるほど、打ち込まれている数字にも気を配らないといけない。でも、副島新が私に仕事を頼むというのはそれなりに私のことを信用してくれているということ。私はその信用に誠意を持って応えるつもりだった。


 早く自分の仕事を終わらせないと……。


 必死に仕事をしていると、不意に自分の手元が暗くなるのを感じた。


 私の手元を覗きこんでいるのは小林主任だった。小林主任は営業成績が桁外れと言われる本社営業一課から転勤してきたばかりなのに、転勤早々に新規取引先開拓をし大きな契約を結んだ。名実ともに華々しいデビューを飾った人だ。



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