幸せそうな顔をみせて【完】
 その日は夕方になっても副島新と会うことが出来なかった。副島新が出掛け、私が出掛け、副島新が帰ってきて、また出掛けている間に私が帰ってくる。横の席にいるのだから、外回りに行かないときはほぼ、一緒に時間を過ごしているのに、今日に限っては擦れ違いばかり、結局監査部からの書類が戻って来て、夕方私が退社する時間になっても副島新は戻って来ない。


 ちょっとでも会ってから帰りたいと思って、少しだけ残務整理をしたけど、それでも副島新は帰ってくる気配はなかった。仕事も残ってないのに、営業室にいるわけにもいかないので、帰ることにした。今日は机の下にバッグを置いたままにしていたから、パソコンさえ電源を切ればいつでも帰ることが出来る。


『帰ってこなかった』


 そんなことを思いながら、パソコンの電源を落したのだった。



 仕事が終わると解放感に包まれ、今日の自分の仕事を振り返りながら帰ることが多い。駅までの少しの距離は仕事とプライベートの切り替えにいい時間だ。たった10分くらいでも、仕事モードの私が次第に姿を消していく。


「疲れたな」


 そんな呟きを零してから駅に向かって歩いていると、駅の改札の横の壁から強い視線を感じた。普段なら何気なく通り過ぎる改札なのに、私の意識を向けさせるほどの強い視線につい足が止まってしまった。


 尚之だった。


 朝の電車の中で二年ぶりに再会して、もう会うことはないと自分の中で思っていた。それなのに改札の横にいる尚之からの視線に私は足を止めてしまった。
< 175 / 323 >

この作品をシェア

pagetop