幸せそうな顔をみせて【完】
「今、幸せか?」


 これを聞くために尚之はどのくらいの時間を費やしたのだろう。そんなことを考えた。今日、私が寝坊しなかったら、尚之が私に会うことはなかった。会おうと思えば、お互いの友達でも介せばいつでも会えたけど、私も会おうとしなかったし、尚之からの連絡もなかった。そんな私と尚之が再会したのは偶然という神様の悪戯なのだとしか思えない。


「とっても幸せ」


 嘘じゃないし、強がりでもない。私は副島新に愛されてこれ以上ないくらいに幸せだと断言できる。そんな私の言葉に尚之はホッとしたかのようにニッコリと微笑んだ。


「そっか。それだけはずっと気になっていた。葵は真っ直ぐすぎるから、仕事ばかりで自分の幸せを後回しにしそうだったから。俺が心配するもの可笑しいけど、今朝会ってから、どうしても気になってしまって待ってた」


 尚之は変わってなかった。優しさも思いやりも…。でも、不器用で一つのことしか出来ない人。そんな尚之を理解していたから、私は仕事に夢中になる尚之が次第に離れていくのを感じていた。そして、私も不器用で同じように離れてしまっていた。


「俺、近いうちに親父の会社を継ぐことになる。そして、会社関係の取引先の人と結婚することになると思う。仕事を選んだ時から結婚も自分の自由にはならないと分かっている。でも、葵とのことは本気だったし、一生大事にもしたいと思った。それは嘘じゃないから」


「うん。分かってる。でも、結婚するなら、その人と大事にしてあげて欲しい。そうじゃないと尚之が幸せになれないでしょ」
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