幸せそうな顔をみせて【完】
 私と尚之の時間は重なることなく平行線を辿っていて、この先も重なることはない。それだけは言える。でも、嫌いで別れたわけではないから、尚之が私が幸せかどうかを聞くように、私も幸せになって欲しいと思う。


「葵らしいな。で、葵の男ってどんな奴?」


 副島新を思い出すと、自然に顔が緩む。ずっと好意を持っていた時間よりも深く愛し合ってからの方が思いが増している。会う度に好きになるから困ってしまうほど。そして、今は会いたくて仕方ない。


 ずっと片思いで今は両想い。でも、片思いのような恋心が今も胸にある。


「私が好きな人」


「それって答えになってないけど、それだけ聞ければ十分かな。俺も彼女とかはいないけど、仕事も順調だし幸せだと思う」


 そう言って尚之は笑いながらコーヒーカップに口を付けたのだった。


 カフェで一緒にいた時間は10分くらいのこと。尚之は『久々にご飯でも』と言ってくれたけど、私の方が首を振る。尚之と話していると副島新に会いたくなってしまったから。今からすぐにでも会いに行きたい。


「今から彼のとこに行くの?」


「うん。尚之と会ったら、どうしても会いたくなったの」


「そっか、じゃ、葵。元気でな」


「うん。尚之も」


 カフェの前で尚之と別れると、一緒に駅の方に向かうことはなく、私は少し離れた場所になるタクシー乗り場に向かう。副島新と付き合いだしてからタクシーに乗ることが増えたけど、少しでも早く会いたいと思う私の気持ちは駅で電車を待つなんて出来なかった。


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