幸せそうな顔をみせて【完】
「分かった。一杯だけ付き合う。でも、飲み終わったら帰ってくれ」


 一杯飲みに行くって…それってデート?自分の中の血が一気に足元まで落ちていくような気がした。金曜日からの副島新がとっても優しかった分、裏切られた感がいっぱいで…ショック過ぎて涙さえ出てこなかった。それどころか身体の震えが止まらない。裏切られたと思っているのに…。それでもなんで私はこんなに好きなのだろう。


 身体の震えは怒りではなく…副島新を失う怖さからだった。


「ねえ、新くんのマンションに泊まっちゃダメ?」


「ダメに決まっているだろ。ほら、行くぞ」


「新くんの奢りでいい?」


「いきなり来てたかるな」


 そんな副島新の声を最後に何も聞こえなくなった。


 横道から出て、大通りの方をみると、副島新の横には綺麗な彼女が楽しそうに話しながら歩いている。そんな二人の姿が見えなくなってから私は泣いているのに気付いた。さっきはショック過ぎて涙も出なかったのに、二人の会話があまりにも自然な親密さだったから現実を理解した私は涙を零していたのだった。


 まさか二股されるなんて思わなかった。私の知る副島新は二股なんか出来るような人じゃない。でも、現実は目の前にある。


 私は副島新と志摩子さんの歩いて行った方の反対側に向かって歩き出すと一番近くにあった店に入った。泣いてしまったから電車に乗れない。それに少し気持ちを落ち着けたい思った。



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