幸せそうな顔をみせて【完】
 嫌とは言いながらも副島新も無理やり手を解くようなことはしてなくて…。


 半分諦めモードだった。副島新が諦めモードに入っているところをすかさず攻めてくる。その攻め方はかなりの高度テクニックで頭脳明晰な副島新を追い込んでいく。ジワジワと二人の天秤は彼女の方に軍配を上げようとしているようにしか見えなかった。


『その人は誰?』


 私はそんなことは聞けないし、二人の姿を見たくなくて後ろを向くと横道に入った。でも、そこでも二人の声は聞こえていた。副島新には姉妹は居ない。両親も親族もみんな東京に住んでいると聞いていたから、彼女は親族とか、血縁とかじゃない。その証拠に二人の顔に親族特有の共通点はなかった。


 仕事関係でもない雰囲気だし、年上に見えるから、大学とかの同級生というのでもない。そうなると考えられるのは…副島新の『年上の彼女』???


「志摩子さん。勘弁してくれ。仕事で疲れているんだ」


「私と新くんの仲じゃない。ね。いいでしょ。美味しいイタリアンのお店に行きたいの。気分は白ワインかな」


 二人の会話は噛み合ってない。副島新は帰りたいと言っているけど、副島新が呼んだ『志摩子』さんは副島新の言葉を綺麗にスルーしていて、自分の思いだけに素直に話してた。でも、話を聞いていると二人の関係は親密で…時間を掛けた関係というのは分かる。


 あの副島新にとって頭が上がらないという感じを私は受けた。そして、押し切られるように副島新が妥協点を目の前に出した。

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