幸せそうな顔をみせて【完】
 何か言いたげな副島新は小林主任に呼ばれて行ってしまう。そんな後ろ姿を見ながら私はコーヒーでも飲もうと思って自分の席を立った。今日は甘いコーヒーが欲しい。身体を、心を癒してくれる甘さが私には必要だった。自動販売機で買ったコーヒーは甘い。だから、いつもは微糖のコーヒーを選んで飲む。


 だけど、今日は…甘さが際立つものを選ぶ。プルタブを開けて口をつけるとまだ、始業には時間がある。少しの甘さで勇気を貰いたかった。特に難しいことは必要ない。いつか、副島新からあの女の人のことを聞かされるまでいつも通りに平静を装うこと。


「何をどうしたらいいのだろう」


 答えなんか出なかった。


 自分の席に戻ると既に副島新の姿はなく、ホワイトボードを見ると東京に出張とあった。さっき小林主任が言っていたとおり二人で出掛けたのだろう。朝礼は他の社員が行い…。私にとってはいつも通りの一日が始まった。でも、いつも通りに見えていつも通りではない。胸の重さが取れない一日の始まりだった。


 でも、こんな日に限って仕事が上手く行く。もうひと押しと思っていた先が、急に連絡してきてくれたり、難しい顔をしていた先は詳しい資料が欲しいと言う。何時もなら副島新にメールをするところだけど、どうもそんな気分にはなれずに帰社したのだった。


 会社に戻って一応報告をすると、することが無くなったので、私は会社を出た。そして、メールをする。メールをした相手は尚之だった。


『何時に仕事が終わるの?』
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