幸せそうな顔をみせて【完】
 会社に戻ると小林主任は居なかった。ホワイトボードには『外出中、時間によっては直帰』とあった。


 私は自分のパソコンを立ち上げると、小林主任宛にメールを送る。今日のアポでの流れを説明し、後日返事を貰うことを書くと送信した。


「終わった」


 フッと横の席を見つめる。副島新も営業に出ているようで今はその席は空っぽだった。好きという気持ちは今もあるけど、二股を掛けられているという事実が余りにも胸を痛くする。それなのに、副島新を失うのが怖くて、私はそのことに触れられないでいる。堂々巡りな思いを胸に私はそれを誤魔化すかのように仕事に励むしかなかった。


 そして、一時間が過ぎ、二時間が過ぎ。定時の時間が過ぎると私は尚之の携帯にメールした。


『私も定時に終わりそう。駅前のカフェで待ってる』


 すると、帰ってきたメールは簡素なもの。尚之らしい。


『了解』



 副島新は帰ってくる気配はない。このまま私は会社を出るつもりだった。酷く疲れている。寝不足だし、胃の辺りも痛みを覚える。尚之にお金を返してから自分の部屋に帰って、そして、今日は寝る。


 今日は営業課のみんなの戻りも遅いみたいだった。


 私は自分の席の片づけを終わらせてから、営業室を出た。こんなに早く帰るのは久しぶりかもしれない。早い時間だったから、あまり人と会うこともせずに会社の外に出ることが出来たのだった。


 そこはまだ湿度の強さを残す初夏の陽射しに包まれていた。
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