幸せそうな顔をみせて【完】
 リビングのテレビは音を出しているのに、私の言葉で一瞬、全ての音が消えたかのように副島新は目を一瞬見開き、大きく息を吐いた。そして、持っていたビールの缶を床に置くと、私の方を見つめるのだった。諭すような優しい声が私の胸に響いてきた。


「そう思うなら最初から自分のマンションには連れて来ない」


「でも、何も言ってくれないし」


「少しは俺の気持ちも考えてみろ。俺なりに色々ある」



「色々って?」


「好きな女が自分の服を着てるんだぞ。葵の嫌がることはしないと言ったけど、一瞬自信が無くなった」


「似合うってこと?」


「可愛い」


 私は耳が可笑しくなったのかと思った。まさか、あの副島新の口から『可愛い』という言葉が出てくるとは思ってなかったし、それが私に向けられた言葉になるとは思わなかった。一瞬、驚いたけど、その驚きが急に私の顔を染めさせる。


「大人しく水を飲みながらテレビを見ろ。そして、少し落ち着いたら普通に相手を出来ると思うから」


「普通にって?」


「そんなこと聞くな」



 そう言って私の頭をコツンと叩くと、副島新はまたテレビに真っ直ぐな視線を向ける。でも、ふと見上げると、横顔は変わらないのに少しだけ耳が赤くなっていた。



 テレビの映画が終わり、コマーシャルになった時に、副島新は急に立ち上がると私の身体をいきなり抱えると寝室の方に向かって歩き出した。いきなりの副島新の行動に驚いて目を見開くと、急に色香を増した声で囁く。


「床は身体が冷える」



 そして、私が下された先は…三人掛けのソファの真ん中だった。

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