幸せそうな顔をみせて【完】
 紙袋の中には淡いパステルカラーの服と細々とした袋の数々。一つには化粧品らしきものが入っていて、もう一つの袋には下着らしいものも入っている。そのどれもが新品で…。正直、可愛いものばかり。


 まさか、これは全部副島新が用意したもの?そんな思いで見つめると、私の視線を意味を理解したのか、副島新は小さな溜め息を零した。


「俺は女の下着売り場とかにいけないから。全部、志摩子さんに頼んだ。水曜日に親父と喧嘩したっていきなり来て、自棄酒に付き合えと言われたから、仕方なく付き合った時に『女が泊まる時に必要なもの』を聞いたら、酔いに任せてか、グイグイと聞かれて、葵とのこと白状させられた。

 で、次の日に嬉々として俺の所に来たってわけ。葵の泊まるのに必要なものを買うだけのはずが、結局は志摩子さんの荷物持ちになった」


 これが二日続けて副島新が志摩子さんに会っていた理由。分かると『そっか』って思うけど、あの時の私は奈落の底まで自分の気持ちが沈んでいくように感じた。


「別に新しいものとかでなくても自分の部屋から持ってきたのに」


「それは無理。今の俺は余裕がない。葵の手を離せなかった。本当なら会社の近くからタクシーに乗ればもっと葵は楽だったのに、俺は密室で二人に耐えられる自信がなかった」


「運転手さんもいるから二人だけの密室ではないと思うけど」


「運転手くらいなら俺は間違いなく葵に手を出していた」


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