幸せそうな顔をみせて【完】
「葵。似合ってる」


 副島新は耳元で囁くと私に真剣な眼差しを向け、綺麗な顔が近付いてきたかと思うと、触れるだけの優しいキスを唇に落とした。そして、また抱きしめると私の髪に繊細な指先を絡めた。

「雑炊が出来てるから食べよう」


 副島新の作ってくれたのは鶏雑炊。鶏と卵と野菜が少し入ったシンプルなものだった。でも、小さなお椀に入れられた鶏雑炊はとても美味しそうな香りを漂わせていた。その香りに誘われるようにスプーンですくい口に入れるとダシの香りがフワッと鼻に抜けた。


「美味しい。この味付けどうしたの?」


 まるでどこかの店で食べたかのような味に驚く。料理まで上手となると副島新に死角はないのだろうか?


「ネットで見つけて、その通りに作った。化学の実験と同じように分量を間違えなければどうにかなる。初めて作ったから自信はない」


 確かにそうなんだけど、雑炊とはいえ、野菜まで綺麗に切られているのを見ると手慣れているようにしか見えない。私がシャワーを浴びている間にこれを作ってくれたのだから、手際もいい。


「野菜も綺麗に切れてる」


「切り方もわからなかったから、動画を見てした。そんなことはいいから早く食べろよ。まだ、具合悪いみたいだから、早く寝ないと」


「うん。ありがとう」


 私は熱い鶏雑炊を食べていると、副島新も横に座って食べだした。まだ食欲が戻ってないけど、一緒に食べる鶏雑炊がとても美味しくて、自分のお椀に入れられた鶏雑炊だけは残さずに食べることが出来たのだった。


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