幸せそうな顔をみせて【完】
 今、副島新の中にあるのは私への思いだけだと思う。人の気持ちを推し量るなんて出来ないけど、今のこの瞬間だけは私だけが副島新の中にあるように思えた。言葉がなくても通じる思いがここにある。置いて行かれないように私は必死で手を伸ばすと、その手を副島新はキュッと掴み綺麗な唇を落す。


 悔しいくらいに余裕がある。私はもう余裕なんかないのに。


「葵。好きだ。もっと綺麗な葵を見せて」


「いや」


 耳元で囁く甘い言葉に呼応するかのように私の身体からはしたないくらいに蜜音を響かせていた。恥ずかしいとか何も考えられないくらいの副島新の動きに揺られる。激しい愛を身体中で受けながら、私は目の前が真っ白になりかけて、急に強張っていた身体が急に緩む。瞑っていた瞳を開けるとそこには副島新の真剣な顔がある。


「俺が欲しい?」



 言っている言葉は少し冗談を混ぜたようなものなのに、その表情には冗談の欠片もない。副島新は私を本気で欲しがっている。副島新のことが好き過ぎて可笑しくなったのかもしれない。前の私なら笑い飛ばしたような言葉なのに…本音を零す。


「欲しい。まだ、足りない」


「上等」




 副島新も背中に汗を流していて、額からも汗の雫が流れ落ちる。


 先週の週末もこんな風に私は副島新に抱かれた。でも、こんなに貪るように抱き合ったのは初めてだった。


 それなのに私はまだ足りないと思う。


 こんな貪欲な自分を私は知らない。
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