幸せそうな顔をみせて【完】
 副島新の方が一枚上手だったのかもしれない。素直に慣れない私のことを見透かし、それでいて包み込むように温もりをくれる。言葉だけでなく態度でも私を大事に思ってくれていると教えてくれる。


「もう少しこのままでいい?」


 あんまり副島新が優しいので、つい甘えた言葉を囁くように零すと…。何も言葉はなくて私を抱く手に少しだけ力が籠る。


 そんな温もりの甘えるように私は静かに目を閉じてみた。トクトクとリズムよく聞こえる鼓動に何も考えられなくなっていく。そんな掠れていく意識の中で私は副島新の声を聞いたような気がした。でも、半分温もりで緩んだ思考は何も考えることが出来ずにいて、理解することなく意識を手放したのだった。


『このままずっと俺のとこにいろよ』



 起きたのは辺りが明るく光に包まれた時間だった。そして、私は昨日のまま、副島新のベッドの中にいて一人だった。身体を起こして見回すと誰も居なくて、でも、全く知らない部屋に私はいた。次第に覚醒していく思考の中で自分の置かれている立場を思い知る。


 昨日、酔ったままここに来て、副島新と一緒にベッドに入ったところまでは覚えている。少しだけ寝れなくていると、急に副島新が話しかけてきて、キュッと抱き寄せられて…。


 そこからの記憶が曖昧だった。


 まさか、副島新の言うとおり、グーグー寝てしまうとは思わなかった。色気も何もかも無にしてしまうくらいにグッスリと寝てしまったのだ。
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