幸せそうな顔をみせて【完】
 ベッドから身体を起こした私が大きすぎる溜め息を零したのは当然のこと。ゆっくりと身体を起こし、リビングの方にあるドアを開けると、寝室と同じくらいに眩い光に包まれたリビングがそこにはあった。


 でも、それが何か違うと感じたのは光の強さ。どう見ても朝の清涼な空気を孕む光とは思えない。そして、視線を上げた先にある壁掛け時計は私の想像を超えた時間が刻んである。


 午前11時38分。


 朝というよりは昼と言ってもいい時間。そして、私は今。背中に冷たい汗が流れるくらいに焦っていた。リビングを見回すと、ソファの上に身体を横たえている副島新の姿を見つけることが出来た。私の視線の先にいた副島新は目を閉じていて眠っている。いつの間にリビングに来たのだろうか?それともあまりにも私の寝相が悪くて逃げるようにここに来たのだろうか?


 私はソファの傍に行き、副島新の姿を見つめると昨日のことが嘘でも夢でもなかったのだと実感する。


 酔っている時の自分勝手な夢かもしれないと思うほどの幸せな夢はこうして普通に戻った後でも現実のことだとリアルに教えてくれる。ソファの近くまで行き、床に座り、寝ている副島新の顔を見つめる。すると、寝たいたはずの副島新の腕が急に伸びてきて、私の髪に指を絡めるとグッと引き寄せた。


 唇に柔らかいものを感じる。目を見開く私にそっと、薄目を開けると、キスをしながらその微かな隙間から言葉を零す。


「キスする時は目を閉じろよ」
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