幸せそうな顔をみせて【完】
 そんな甘さの残る言葉のままに私は目を閉じた。何度も何度も繰り返されるキスはとっても優しいのに少し強引で私の心の中をグラグラと揺らす。キスは付き合っていた人もいるのだからもちろん経験はある。でも、どうしようもないくらいに胸が切なさに揺れるというのはなんでなのだろう。


 ゆっくりと愛を確かめるように、愛を教えるように繰り返されるキスにジワジワと私の心の中から全てを取り去ってしまい、残るのは副島新が好きだという気持ちだけしか残らなかった。昨日の夜にハッキリと感じた思いは私の中で自由に解き放たれ…。今は副島新しか見えない。

「葵……」


 名残惜しげに離れた唇は…。少し濡れていて、一度私の名前を呼んでからもう一度、私の唇を塞いだ。身体毎引き寄せられると私は副島新にしっかりと抱き寄せられたまま何度も何度もキスを繰り返していた。


 キスを繰り返す度に私は…副島新の色香に迷っている気がしてならない。


 いつの間にか私はソファを背に押し付けて、副島新の身体に覆われている。次第に失っていく自由に心を揺らしながら副島新を見ると、私の視線に気付いたのか静かに目蓋を開いたのだった。


「葵。俺のものでいいんだよな」


「…うん」


 私が静かに頷くと副島新は誰よりも綺麗な顔で笑ったのだった。


 
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