幸せそうな顔をみせて【完】
 でも、考えるって?なにを?


「一度マンションに帰ってから着替えて。それから食事じゃないの?昨日、そう言ってたよね」


「まあ、確かに昨日はそうだったけど、そうは出来ない理由も出来た。葵に二つの選択肢をやる。このまま、俺にここで抱かれるか?葵の部屋に行って俺に抱かれるか?」

 
 それって、全然選択肢になってない。


 どちらにしろ場所が違うだけで同じことだから、選択肢ではない。でも、なんでこんなことを副島新は言うのだろうか?副島新の優秀な頭脳は今も迷走中らしい。それどころか暴走していて、今の私にはどう切り返して行けばいいのかと思うほど。


「何でなの?急に」


「欲しいから」


 それって理由になっているようでなっていない気がする。あの、副島新がそんなことを言ってくれるのは嬉しいけど、それにしても…。やっぱり暴走中なのは間違いない。


 副島新に抱かれること。


 それは嫌じゃないし、もっと傍に行きたいと思う気持ちもあるからそのうちにはと思う。でも、昨日の今日で、それもこんな風に宣言されてからというのも躊躇してしまうのも事実だった。


「理由になってないよ。それにお腹空いたもん」


 副島新は私の顔を見るとフッと息を吐くと、ガシガシと自分の髪に指を通す。何か頭の中で精巧なコンピューターが解析でもしているかのように動きが止まったかと思うと、眉間に薄らと皺が刻まれたのだった。
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