幸せそうな顔をみせて【完】
「分かった。葵のしたいようにしていい」


 まさか、副島新が私の希望を受け入れてくれるとは思わなかった。仕事の時も自分のペースでするし、今まで私が知る中で人の話をきちんと受け入れた上で自分の思い通りになるようにしている副島新が私の意見のままに動いてくれるとは思わなかった。


 暴走が少し落ち着いてきたのかもしれない。そう思うとホッとする。


 迷走する副島新も暴走する副島新も私は知らない。そんな一面があったのだと思うばかりだった。でも、嫌いかと言われるとそれは違う。そのどれもが私のことを思ってくれている愛情表現のようだと思うと嬉しいと思ったりもするから複雑だった。


「じゃ、自分の部屋に帰って着替えをしてから、一緒に何か食べに行きたい」

「一時間しか待てないから」


「は?」


「葵が自分のマンションに戻ってからの時間。本当はここから直接何か食べに行きたいけど、それじゃ嫌なんだろ。だから、譲歩する」


 歩いてすぐの距離だから一時間もあれば準備は出来る。シャワーを急げばどうにかなる。だから私はその提案に頷いたのだった。『このまま、俺にここで抱かれるか?葵の部屋に行って俺に抱かれるか?』という選択肢よりは十分現実味を帯びている。


「なあ、昼は何が食べたい?店を決めとくから」

「近くのカフェでいいよ。サンドイッチとかコーヒーとかでいい」


「分かった」


 そういうと副島新はニッコリとまた綺麗な微笑みを浮かべたのだった。
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