幸せそうな顔をみせて【完】
 真面目で誤魔化しのない正々堂々とした所も私が惹かれたところの一つ。でも、だからと言って、余りにも急激な展開についていけるほど、私の頭は柔軟ではない。昨日までは気の合う同僚だったのに、恋人になり、今では結婚を前提お付き合いということになっているのだ。


 その上、子どもとか…。


 嫌いじゃないし、勿論、恋愛感情もある。でも、だからと言ってそれを何もないかのように受け入れるほどの柔軟性はない。もう少し私のスピードに合わせて貰えたらと希望的観測を持ってしまう。


「そえじ……新が嘘とか誤魔化しが嫌いなのは知っている。でも、私は昨日からの展開の速さについていけないの。もう少しゆっくりと付き合いたいと思うんだけど」


「俺は本気だ。葵との将来は俺の中で決まったこと。後は段階を踏んで行けばいいと俺は思っている。それに葵のスピードの任せていたら、勝手にお見合いとかされても困る。……ま、そんなのは阻止するつもりだが」


 昨日からの展開で自分が叔母の顔を立ててのお見合いのことなんか全部綺麗さっぱり忘れていたのに、副島新は忘れてなかったようだった。


「阻止って……凄い自信」


 私の言葉に副島新は口の端を少しだけ上げた。でも、困ったことにそんな自信満々の表情が堪らなく好きだったりするから性質が悪い。なんでも許してしまいそうになるのだ。


「さ、行こうか」


 どこに行くのか分からないけど、私は副島新が行きたいという先に向かって歩き出したのだった。


 




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