幸せそうな顔をみせて【完】
 そんな言葉を受けて、店員さんはガラスケースからいくつかの指輪を取り出して黒いビロードの布が貼られた箱の中に置いてから、私の前に差し出した。ガラスケースの中にある時、値段の書いた札は見えないようにしてあったけど実際に手の取ると、つい値段のついた札が見えてしまう。


 どう考えても『0』が一つ多い。軽くファッションリングという値段ではない。その指輪は見なきゃよかったと思うくらいに高かった。そんな私の気持ちに気付いたのか副島新はすかさず攻撃に出てきたのだった。そういうところは見落とさないのはさすがとしか言いようがない。


「嵌めてみろよ」


「ちょっと私には」


「嵌めてみないと似合うかわからないだろ」


 どうしようかと躊躇していると、副島新は私の手をキュッと取り、いきなりビロードの箱の中から指輪を取ると私の指にゆっくりと嵌める。そして、一瞬眉間に皺を寄せたかと思うと、その指輪を箱の中に戻した。何が気に入らないのかそれすらも分からない。


「違うということしか分からない」


 私もそれは同意見だった。嵌められた指輪はどちらかというとゴージャスなタイプで、普段から付けておくのは難しいと思えるほどだった。貴金属店にしてもゴージャスなのからシンプルなものまで揃えてあるのが普通だから、何も驚きはしないけど、なんでこれを最初に選んだのかは分からなかった。


 そんなのを何回か繰り返していくうちに最後から二つ目の指輪を私の指に嵌め、そのまま右手の薬指を見つめたまま少しだけ顔を綻ばせた。
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