ご懐妊は突然に【番外編】
病院に来てから早10時間が経過する。

晴子さんは家にお子さんを残して来ていたので「また明日来るわねー」と言って20時を過ぎた頃に帰って行った。

「まったく匠は何をやっているのかしらねぇ」

お義母さんは腕時計にチラリと目を落した。

「そろそろ、葛城さんはお帰えりになってください。後は私が見ますので」

ママが気を使って言ってくれた。

「でもお宅にも双子ちゃんもいるのに申し訳ないわぁ」お義母さんは柳眉を下げる。

「大丈夫ですよ、もう二人とも高校生ですから。その代り明日は早めの時間に来ていただけると助かりますわ。私は少し遅れて来ますので」

そんなやりとりをしていると、病室のドアがガチャリと開く。

「遥はどうなった?」

愛しの旦那さまがようやく到着した。

「匠さん…」

私はベッドにうずくまったまま匠さんの方へ視線を向ける。

「その様子だとまだ産まれていないみたいだな」匠さんはホッと目元を緩ませた。

その顔を見ると安心して涙が出そうになる。

「遅かったじゃない匠ー!連絡しても全然繋がらないし」お義母さんはご立腹のようだ。

「ごめん、会議が長引いちゃって」

スーツ姿のところを見ると、職場から駆け付けてくれたようだ。

「遥、大丈夫か?」

私は無言のままコクコク頷いた。

もうどこにも行かないで、側にいて、と言う代わりに私は匠さんの手をギュッと握りしめる。

「旦那さまが来たようだから後はお任せしましょうか」その様子を見てママが言う。

夜間の付き添いは一人だけと病院で決められているため、匠さんが残ることとなった。

最後にママは「明日くるから。頑張るのよ、遥」と言って私をそっと抱きしめた。

きっとママも眠れない夜を過ごすことだろう。
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