ご懐妊は突然に【番外編】
田中が燁子さんと結婚するとは全くの想定外だった。

前夫と紆余曲折あり、燁子さんは離婚を余儀なくされ実家へ出戻った。

そこで運命に導かれるかのごとく、これまた訳あって葛城邸で暮らしていた田中と出会った。

一緒の家で暮らしているうちに田中はすっかり燁子さんに惚れ込んでしまい、口説き落としたそうだ。

学生の頃、確かに田中が燁子さんに憧れているかな?と思う場面はあったが、当時は学生風情の田中と葛城家のご令嬢がどうこうなるハズがないと思っていた。

ま、自分を棚に上げてるけど。

しかし、田中の執念ともいえる一途な思いが実を結び、二人はめでたくゴールインしたのだから人生って不思議だ。

「赤ちゃんの事聞いたわよ。田中さん、おめでとう」

燁子はお喋りだなー、なあんて言いつつも田中はニヤニヤしてる。

きっと嬉しいのだろう。

「田中さん、またミラクルを起こしたのね」

「いや、ただ単にやりまくった結果だ」

燁子さんは飲み掛けたお茶を拭きだした。

相変わらずデリカシーに欠ける。

私が田中を嫌う理由はこうゆうことろにある。

「遥はどうなんだ?双子の下は作らないのか?」

「うちは双子で手一杯よ」私はぐるりと目を回す。

「二子玉の料理研究家の一件があった時、寝室を別にされたって匠が嘆いてたぞ。まだ別々なのか?」

田中は嬉しそうにほくそ笑んだ。

「ええ?!そうなの?!」

燁子さんが驚いて聞き返す。

『二子玉の料理研究家』…とは、匠さんの浮気疑惑がかかったいわくつきの人物である。

少し前、我が家で夫婦喧嘩の発端となった苦い想い出がある。

「ああ、その話ね。実は続きがあるの」

「どーゆーことだ?」田中は身を乗り出して食いついてくる。

「聞きたい?」

私が勿体ぶって尋ねると、田中と燁子さんはブンブンと首を縦に振る。

「匠さんはね、浮気疑惑が浮上しても二子玉川へ通い続けることを辞めなかった」

燁子さんと田中は息を飲み、話の続きに耳を傾けた。
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