ご懐妊は突然に【番外編】
「ごめんね、燁子さん、大丈夫?」

「私こそ取り乱しちゃってごめん。圭人もビックリしたよね」

「あの悪ガキがそのくらいでビビる訳ないじゃない」

私が鼻の頭シワを寄せると「そうだね」と言って燁子さんもそこは否定しなかった。

「しかしデジャヴだわ。圭人は性格も容姿も匠ちゃんの生き写し」

DNAの神秘ね、と呟き燁子さんは感心したようにホウ、とため息をついた。

「随分賑やかだな」

不意に声を掛けられる。

「葛城の奥さまが来てたのか」

切れ長の瞳に漆黒の髪を長めに伸ばした見目麗しき男性がテラスに姿を表した。

しかし、その表情は乏しく人形のようだ。

「ご無沙汰してます。田中さん」

一瞬、ピクリと顔が引きつったが、笑顔を作って取り繕う。

「稜、早かったじゃない。仕事は?」

「終わった。俺は天才だからな」

田中は何の断りもなく、燁子さんの隣にどかりと腰を下ろした。

「その格好で仕事行ってたの?」私は驚いて尋ねる。

「…ダサいって事か?」

田中が真面目に聞いてきたので思わず吹き出してまった。

田中は白い麻のシャツに淡いブルーのコットンパンツを合わせて随分ラフな装いだ。

「素敵だけど、会社っぽくない」

「そうか、俺は会社っぽいと思ってるからいいんだ」

あっそ、と言ってそのまま聞き流す。

田中は匠さんの親友なので、学生時代からの知り合いだ。

しかし、私は基本的にこの男が苦手である。

…それがまさか、親戚になるとはな。
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