オフィスの華には毒がある
「本当、次とかないから」


手に持った大きめのバックをどさり、と持ち上げ、ゆっくりと振り返る、その人。


そそくさと退散する斉木くんが霞んで見える。


優しげな瞳が、こんな薄暗い廊下で見てもキラキラしていて。

その瞳は、何故かとても安心する色で。


ああ、恋ってこんなふうに、始まるんだっけ?


駄目だ、わたし、これじゃあ簡単すぎるでしょ……でも……。

彼が、無造作ヘアーを更に無造作にかきむしりながら、こっちへ来る。


「大丈夫だった?」


……どうしよう。

助けてくれてありがとうございます。いでたち的に部外者っぽいけど、どこの方?
お名前は?おいくつ?結婚してます??

ああもう、落ち着いて。まずは、お礼を。


「ありが……「ごめんなー、頼んどいて忘れちゃった、コーヒー」



…………はい?


いや、フレンドリーなのは全然オッケーなんですけど……え?


「でもって、あんまり遅いからすっかり忘れて帰ろうとしちゃった、ハハハ」


……なに?

ていうか、この声……。
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