elevator_girl

紫陽花

ドア、ではなく引き戸を、からから、と開ける。

灯りが付いていないのに安心し、外の雨を眺められる
ところに、いつも置いてある
これも、中学校の教室から持ってきたような
ひとり掛けの椅子、それと机。


この部室に隣り合っている楽器倉庫へ行くと...。

「....こんにちは....先輩。あの...すみません...。」


...深町は、人を覚えるのが苦手。
誰だったかな....。


「ごめん...軽音の子?君?」


その子は、ちょっと小柄で、丸顔。
短く揃えられた髪は、ちょっと茶色がかっている。
日本的な一重まぶたに、愛らしい目鼻立ち。
頬は赤みがさしていて、ちょっとニキビが目立つ感じ。


...カナちゃんのクラスメートかな?


「.....2年の、湯瀬..昌子です。」


そんな子居たっけ、と深町は思いだそうとするが
記憶になかった。

地味な印象の子だったし、夏名のように個性が表に出てしまう子とは
ちょっと違う、後ろに引っ込んでしまうようなタイプだったから
特に気にするまでもなかった。
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