甘い彼。
拾われました
「はぁ…はぁ…う…なんで…」


涙が頬に伝う。


夕方太陽が海に呑み込まれる時間。


私は冷たい海に足をつけようとしていた。


「なーにしてんの、キミ」


唐突に後ろから声が聞こえる。


「…死ぬ気?ダメだよそんなことしちゃ」


「誰…?」


「俺?俺はね、五十嵐 奏」


イガラシ ソウ…?


「キミは?」


「…野々宮…野々宮 桃羽」


「桃羽…いい名前だ」


「…放っておいて下さい」


再度背を向けて太陽を追うようにまた一歩一歩進む。


「ダーメ、死ぬ気なんでしょ?そんなことするより帰って親に甘えなさい」


…親?親なんか。


親なんか、私なんて、居なくなればいいと思ってる。


産まなきゃよかったって。


目障りだって。


お前は望んだ子じゃないって。


毎日私に言って聞かせるんだ。

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