立花課長は今日も不機嫌

「おっと、失礼」


不意に現れた人影に驚いて、一歩下がる。


「――と、鳥塚専務」


それがあの鳥塚専務だったものだから、驚きはさらに増す。
プリマベーラの杏奈だと気付かれたら大変と、顔を俯かせた。

鳥塚専務の目線が封筒に向けられたものだから、そそくさと後ろ手に隠す。

その様子が怪しく映ったのか、鳥塚専務はほんの一瞬だけ目を細めた。


「……私の来客はここではなかったかな」


ボソボソと自問自答しながら、両手を後ろに組んで、私が出てきたばかりのミーティングルームを覗き込む。


「お客様をお探しですか?」

「いや、いいんだいいんだ」


そう言いながら、手をヒラリと振って私に背を向ける。

そして、そのまま悠々と立ち去ってしまったのだった。

< 194 / 412 >

この作品をシェア

pagetop