嘘と正義と、純愛と。
彼氏がいるっていうのは、こんな話題になった時に出す常套句。
それさえ言えば、合コンのピンチヒッターとか馴れ馴れしく近づいてくる男の人とか大抵回避できてきた。

深く考えないでそういうふうに言ってきたけど、東雲さんの何気ないひとことが私を考えさせる。
でも、これ以上、その件について考えたらいけない。

だって、ダメだよ。私の今の生活が……心が、思考とズレを生じさせてしまいそうだもん。

余裕のないいっぱいいっぱいな頭で、隣の東雲さんに愛想笑いを返す。

どうして。なんで、『考えちゃいけない』『感じちゃいけない』って思うこと程、自分の意思とは裏腹に思考を巡らせていってしまうの?

まるでもうひとりの自分と葛藤するように、ふたつの心がせめぎ合う。
無になろうと思えば思うほど、邪念が私を侵食していく。

〝無性に〟

さっき自分の中で湧いた気持ちが、意に反して浮上してくる。

斎藤さんが、東雲さんに笑いかけて『可愛い』と言った時。
私に『いつでも連絡していい』と番号を手渡してくれたのは、もしかしたらほかの人にも同じことをしているかもしれないと思った時。

私は、無性に悲しく、そして、嫉妬した。

こんな感情に躍らされちゃいけないんだ、ってこの数日で何度も繰り返していたのに。

『なんで、そんなに頑張るんですか?』

脳内で聞こえた斎藤さんの声。

『自分を信じたいから』と答えたけれど、本当は、現実を見るのが怖いからなんだ。
今いる場所から一歩踏み出した時に、現実(ここ)よりも苦しい世界が待っているのかもしれないって思うと、怖くて怖くて動けなかった。

――でも。

『もっと、人に寄り掛かることを覚えろ』

もし、誰かがそばにいてくれるなら、変われるかもしれない。
変わらなくちゃいけない。

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