テンポラリー・ジョブ
「ありがとう。助かったよ」
高島は大輔に礼を言った。

「俺、高島さんには、こんなことしか出来なくて・・・」
大輔は、しめっぽくなった。

「なに、うかない顔しているんだ」
高島が笑顔で言った。

明日から退職日まで有給休暇をとることを高島は決めていた。

事実上、大輔が高島と会うのは最後の日だった。

「今夜、どこかで食事でもしませんか? 知恵を呼んで三人で送別会でも」

「ありがとう。でも、今夜、函館に行くんだ」
 
「函館って?」

「娘と会うんだよ。今は別れた女房と一緒に暮らしている。高校一年生になるかな」
高島は、にこり笑った。

「会社を辞めることを、別れた女房に話したら、娘からメールがきたんだ。一緒に食事でもしないかって・・・」

「そうですか」

「考えたら、仕事人間で子供とも遊んでやることもなかった。子供のことは女房に任せきりで、まったくダメな父親だった。そんな、俺に、娘が食事に誘ってくれたんだ。仕事人間じゃなくなった、この俺に」

高島は嬉しそうな表情で言った。

それは、ここ何日間、仕事のトラブルで厳しい表情しかしてなかった高島に、安堵感さえ感じさせる顔だった。
 




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