黄昏と嘘

帰ったところで彼はまだ帰宅はしていない。
なのに考えただけで彼女の鼓動が激しくなる。
チサトは大きく息を吸ってそれから吐いた後、ゆっくりと回れ右をする。
彼女の向かう先は地下鉄の駅、乗るとアキラのマンションのある駅に着く。

それでも往生際の悪い彼女は駅についてもしばらくぼんやりと考える。

やっぱり・・・。
私がよくったって先生がいいとは限らない。
やっぱりひとりであの家にいることを先生もきっとよくは思わない。
いつものように寄り道して帰った方がいいかもしれない。

チサトはそう考えて地下鉄の駅の近くまで来たけれど再び方向転換をして図書館へ行くことのできる私鉄の駅へと向かう。

ほんと、私、なにやってんだろう。
こんなことでウジウジして。

歩く道すがらため息をつきうつむきながら小さく独り言のようにつぶやく。


「あっ、ごめんなさい」

ぼんやりとしていたチサトの肩に何かがぶつかり思わず謝りながら彼女は顔を上げた。

「こちらこそごめんなさい」

ぶつかったその女性は謝りながら落とした定期を膝を落として拾う。

その何気ない仕草にチサトはモモカのことを思い出した。




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