黄昏と嘘

「石田・・・さん?」

チサトが彼女に呼び掛ける。

「え?」

不思議そうな顔をしてこちらを見た彼女はモモカとはまた違った美しさをもった女性だった。
長く少しウェーブのかかった黒髪、清楚なグレーのワンピース姿。

そして彼女のつけている香りだろうか、甘くてやさしい香り。
うっとりとしてしまう。


「なにか・・・?」

「あっ、ごめんなさい。
知ってる人かと思って・・・」

慌てて手を振りながら謝るチサトにその女性はくすっと笑う。
でも仕草や振る舞いとか、モモカによく似ており、チサトは懐かしい思いと切ない思いで笑おうと思っても上手くできなかった。

「大丈夫?」

聞えた声にはっとする。

「はいっ、大丈夫です、こちらこそすみません」

やっと謝ることができたチサトを見て優しい笑顔で返した彼女はそのまま軽く頭を下げて去って行った。

チサトはそんな後ろ姿を見送りながら、自分のことを棚にあげて、今ここにモモカがいたらこんな思いはしなくてすんだのに、と複雑な感情を抱いた。

・・・なんだか、疲れた。
もう帰ろう。
そっと帰って部屋から出なければ先生の邪魔にもならないだろうし。


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