黄昏と嘘

しかし数秒後、その追いかけてくる人間の息を切らせながらの声が聞こえた。

「ミスター……!」


あっ、あの声。
エドワード先生?


チサトは追いかけてきている人間がリーディングの先生だったことに驚き、振り向きそうになる。
しかしアキラにもその声が聞こえていたのか、さっきよりも走る速度があがる。

「早く!来い!」

アキラはチサトにそう言うけれど彼女もそれなりに必死で走って彼を追いかけているのだ。
でもアキラとチサトでは身長差があるからそう簡単には追いつかない。
そしてそれでもエドワードは追いかけることを諦めていないようで背後から再び声が聞こえる。

「チョット、待ッテ…!Wait!Sir!」

必死になるチサトだったが、どうしてもアキラとの距離が少しづつ広がる。

「見つかったら面倒なことになるから!」

アキラはチサトが追いついていないことに気づき、チサトの元に戻ってきて彼女の腕を掴む。
そして再び走りだす。
たくさんのひとの中を泳ぐように。

空は黄昏れて、夕方というには頼りなく、夜にはまだ早い。
西の空の赤と紺、街並みがぼんやりと染まる。


この色・・・。


チサトはアキラが黄昏の中、泣いていた姿を思い出す。

あの時も黄昏、同じ空の色。

いや違う、今は秋。
そして今、確実にチサトとアキラの距離は・・・。


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