黄昏と嘘

「私・・・、別に映画が観たいんじゃなくて・・・」

そんなカノコにちょっとムッとしたチサトは口をとがらせて言った。

「じゃなんで借りたのよ?」

「あ。それは・・・」

 チサトはそこまで言いかけてハッとした顔をする。
借りた理由など言えるわけもない。

勉強目的でないと言ったら途端に興味津々の顔をしてチサトを詰問するだろう。
チサトはそのことがバレにようにカノコから目を逸らした。

「えっと・・・!
思い出させてくれてありがとう、今から急いで帰って観るっ!」

詰問されたくないチサトは思わず大きな声でカノコが口を挟めないように一気に話す。

そんなチサトにカノコは呆気に取られた表情になる。
しかしチサトは言葉をかけることなく、彼女を置いて小走りでその場から逃げるように離れた。



先生のことは・・・。


ピアノのことは言っちゃいけないような気がしたから。

ううん、違う。

言っちゃダメなんだ。

それは泣いていた先生と繋がっているから。

先生と約束したから。

誰にも言わないって。



それだけが、

たったそれだけが、

今の先生と私を繋ぐ、唯一の。


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