黄昏と嘘

「あ…そういえば・・・、アンタこないだ借りるって言ってたDVD観たの?
字幕なしでも内容わかった?」

思い出したように彼女にそう言われて、チサトもまた同じようにそのDVDの存在を思い出した。
あの借りたあとからも日々、いろんなことがあり、すっかり忘れていた。

気付いたときに観よう、観ようと思いながら結局、なんだかんだと後回しにしてしまっていたのだ。

チサトはそんなことを思うと同時に頭の中にアキラのピアノが浮かぶ。

・・・彼の奏でるノクターン。


「忘れてた・・・」

「返却期間も過ぎてんじゃないの?」

カノコは脅すように口角を上げてニヤリと笑ってチサトに言う。
確かにあれからどれくらい日が過ぎたのかわからない。
チサトはそんなカノコの言葉に急に焦りだす。

「え・・・、そんなことは・・・」

「まあ、観てもわかんないんだろし、いいんじゃないの?」

カノコは焦るチサトを見て今度は声に出して笑う。
彼女は当然、チサトが借りたDVDの本当の理由など知らない。
おそらく、リスニングの勉強のためにと思って借りたと思っているのだろう。


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