ありふれた恋でいいから
私の零れた心の声には気付かないフリをしてくれたのだろうか。

畑野くんは保険証を私に預けて。

私は拾ったお守りを彼に渡して。

離れてしまった二人のほんの一瞬だけ重なった軌道すら、すれ違おうとしていたその時。




「…捨てられなかったんだ」

「………」

耳に流れ込む懐かしい穏やかな低い声は、ベッド脇に立ち竦む私を一瞬で動けなくする。

「どうしても捨てられなかった」

そして。

確かめるようにもう一度呟いた畑野くんは、すぐ傍にあった私の右手首を引き寄せた。
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