ありふれた恋でいいから
誰かに尋ねて彼女を呼び出すことは不可能じゃない。
地元の同級生だと言えば怪しまれることだってない、けれど。





須藤は結婚する。

誰かのものになる彼女にもう一度会って俺はどうしたい?

俺の不用意な選択がもたらしたこの10年は、簡単に修正できる時間じゃないんだ。

それが分かっているから。

だからこそあの時、彼女は俺の言葉を遮ったんじゃないのか?

ふと背中に視線を感じれば、それは窓口で会計をしてくれた男性職員のもの。
いつまでも外に出ようとしない俺の様子を遠くから伺っているようだった。

その視線に促されるように一歩踏み出せば、俺に起きた偶然の奇跡は音もなく掠めていくだけ。

もう二度と、須藤と会うこともない。

自動ドアを潜り抜けると襟元に吹き込む風が冷たくて、思わずコートの襟を立てた。
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