ありふれた恋でいいから
畑野くんに突然別れを告げられた、あの日。

次第に強くなった雨にただ降られるままに濡れて家に帰りついた私は、ショックのせいなのか酷く冷えたせいなのか、高熱を出した。

熱に魘されているのか、それとも受け入れられない現実に抗っているのか分からないまま呻くように何日かが過ぎて。
漸く起き上がれるようになった時に初めて、携帯が壊れていることに気付いた。

……雨に濡れたまま放置していたせいでデータは全損。
ショップに持ち込んでももう新しい番号に変えるしか術が無いと言われ、それに従うより方法はなかった。

畑野くんの電話番号も、メールアドレスも、何度もやり取りしたメールも、二人で撮った写真も何もかもが消えて、これ以上ないくらいに途方に暮れた時。

……ふと。
忘れろってことなのかもしれない。

そう思った。
< 42 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop