ありふれた恋でいいから
「……あ、」

夕暮れの街を一人、あてもなく彷徨えば、目に付いたのは壁に貼ってあるやや安っぽい、手作り感満載の映画のポスター。

近くの映画館で今日限定でリバイバル上映されると記されたそれは。
…高校時代、畑野くんと唯一二人で観た映画だった。
勉強ばかりでデートらしいデートも出来なかったあの頃。
クリスマスぐらい息抜きしなよ、と玲ちゃんに勧められて観に行った映画だ。

……バカだよな、私。
現在進行中の彼氏に浮気されたっていう非常事態なのに、結局私の心を独占しているのは今も畑野くんで。

貴博とのこれからを考える気にもなれない私は、その映画館のある方向へ進む自分の足を止めることも出来ない。

…この映画が上映されている時間だけ。
その時間だけ、畑野くんとの想い出に戻りたくて。

―――薄暗い闇の中に、一人、紛れ込んだ。
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