ありふれた恋でいいから
彼の幸せを願っている。
彼の笑顔が消えないことを祈ってる。
今でもそれは変わらない筈だったのに。

止め処なく沸き上がる感情は、あの日の別れに対する後悔の念や、追いかけてももらえない侘しさ、そして。
今、彼の隣にいる誰かへの嫉妬。

誰にも言えない、見せることの出来ない醜い思いを抱えて辿り着いたのは、結局アパートの住み慣れた部屋。

鍵もかかっていない玄関を開ければ、煌々と明かりのついた部屋の中で貴博が何もなかった様に笑顔で出迎える。

「実乃!やっと帰って来てくれた!ホントにごめん。もう絶対に実乃だけだから」

信憑性のないその言葉と何度も抱かれたその胸に圧し掛かるように倒れこめば、またいつもの繰り返しだと分かっているのに。


「貴博……抱いてよ」



終わりの見えない無限のループの中で。
私はこれからも、もがき続ける。
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