“毒”から始まる恋もある
15.“毒”から始まる恋もある



「夜景でも見よっか」

と彼がいい、私達は展望用に開放されている高層ビルの上階にいる。
眼下に広がる光の粒に、居合わせる人々が皆歓声をあげていた。

光と拍手は似てるかもしれない。
一つ一つはそこまで力がないけれど、数が集まるとそれだけで圧巻だ。

ご多分に漏れず、私も「わあ」と声をあげる。
こういう時は素直にしているのが一番いい。

このビルは一階から十五階までが企業用のスペースになっており、そこから上は居住用のスペースだ。
エレベーターホールが中央にあり、周りを囲むように半面ガラス張りの展望スペースがある。
残り半面は居住者用のスペースになっているらしく、壁で遮られており、通行用の扉も施錠されている。

したがって見物人は大抵窓際に寄るので、私達は夜景を堪能した後は、壁により掛かるようにして話した。


「でも、なんで私を好きになったの?」


好かれるようなことをした覚えはない。

むしろ思い切りガツガツと徳田さんに狙いを定めていたところを見られていた訳で、こいつだけは恋愛対象にならないと思われる覚えならある。


「そうですねぇ。本当は、その辺含めて店で話すつもりだったんだけど、店長が隣に潜んでいるのに気づいて辞めたんです」

「あら、そうだったの」

「言ったら呆れられるかも知れないような話なんですけどね」

そんなこと言ったら、私も呆れられるようなこと一杯してるけどな。

「平気よ。言ってみれば」

「怒らないでくださいね」

「怒らないわよ」


小指を差し出されたので、指切りをする。
そこまでさせるとか、どれだけ怒られそうなこと言う気なのだろう。

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