“毒”から始まる恋もある

大丈夫。
エステもこの間行ったばっかりだし、狭いお風呂に湯を張ってデトックスマッサージもした。

でも。


「わ、私、変じゃない?」


既に暗くなった部屋で、彼に体を晒してから急に不安になる。


「変って何処が?」

「か、体とか……ひゃんっ」


言った途端に首筋を舐められて、思わず過剰反応。


「綺麗だって。なんで急に弱気になったの」


小さな笑い声が、皮膚の表面をくすぐる。
暗闇の中で聞く声は、視界が効いている時よりもずっと効果的に私に響く。その声だけで、全身を撫でられたような気がするほど。


「だって」

「俺にとっては一番可愛い」


一週間の疲れが染み込んだ体が、彼によって甘くほぐされていく。


“一番可愛い”、だって。

じわりじわりと言葉が染みこんでくる。
安堵に似た気持ちで、闇に浮かぶ彼に手を伸ばした。


嬉しい。
ずっと、そんな風に言ってくれる人に出会いたかった。










翌朝、私が目覚める前に彼は身支度を整えていた。
朦朧とした頭で、ベッドから「行ってらっしゃい」と声をかけたら、「ぐっすり寝なよ」と笑われる。


ハイ、そうします。
だってもう、完敗だわ?


見送らなくちゃとか思っているうちに瞼が閉じていく。
今なら、彼の出てくる夢が見れる気がする。


“毒”から始まったこの恋は、寂しいことも多いけど、こんな風に私を心の底から満たしてくれる。

幸せは、きっとこのくらいがちょうどいいんだろう。




【Fin.】

< 163 / 177 >

この作品をシェア

pagetop